2011年4月17日日曜日

映画Bill Cunningham New York

しばらく仕事ばかりして、イヤになると深夜に飲みに行くというバランスの悪い生活をしていたのだが、ちょっと落ち着いたので、本を読んだり映画を見たりしようと努力をしている。
しかも、震災以来、日本のことばかりを考えていて、ニューヨークに住んでいることと無関係な仕事が多かったので、自分はなんでニューヨークに住んでいるんだっけ、と軸足が定まらない気持ちになってきた。
というわけで、遅ればせながら焦って見に行ったのが、「Bill Cunningham New York」であります。

日本ではもしかしたら聞きなれない名前かもしれない。
が、仕事はきっとどこかで目にしたことがあるはず。
そして、ニューヨークに住んでいたら、どこかで見かけたことがあってもおかしくない。
ニューヨーク・タイムズのSunday Styleで、On the streetというシリーズをもううん十年以上もやり続けている写真家である。
今でこそすっかりメジャーになった、ストリートスナップの元祖といえばこの人だ。
On the streetは、最近オーディオ付きのマルチメディア版をやっていて、これもなかなか素敵でおすすめである。

この手のドキュメンタリーでは珍しいのだが、不覚にも泣いてしまった。
それも号泣。
ビルは、毎日ストリートに出て、人の(ファッションの)写真を撮る。
ファッションや社交界のイベントにも出かけていって写真を撮る。
ファイルキャビネットがひしめく質素なアパートに(あるのは)ひとりきりで暮らしている。
完全な独立性を確保するために、どんなに勧められても食事はおろか、水すら口にしない。
テイクアウトのご飯をオフィスで食べてから、派手なパーティに出かけていくのである。
彼の笑顔や仕事ぶりを見ていると、贅沢なご飯とか、ラグジャリアスな暮らしに負けないくらい豊かな暮らしなんだろうと思う一方、でも同時にものすごく孤独に見える。
人が何に突き動かされ、何のために生きるのか、という普遍のテーマを、ビル・カンニガムという人を通じて追いかけたこの作品は、私が思う正統派のストーリーテリングの理想型だった。

唐突だけど、ファッションって、私にとってはちょっぴり複雑な問題である。
自分は見るのも、買うのも、着るのも好きだ。
でも心のどこかでファッションは(日本ではそれほどでもないけれど)、一部の特権階級のものだという気持ちが心のどこかにあるし、年に2回のコレクションが世界をまわる巨大なマシーンみたいになっている現行のシステムにも疑問を感じることもある。
おまけに、ファッションそれ自体よりも、作っている人に興味を持ってしまいがちである。
でも、一方で、ファッションって、誰にでもできる表現方法でもある。
どんなに「ファッションに興味がない」という人でも、世の中にある多くの洋服のなかから、自分が着るものを選ぶ。
そんなわけで、ファッションとは? なぜ人がファッションにそこまで魅せられるか、というのはいつも考えていることのひとつなのだが、ビル・カニングハムがまた新しい答えのひとつをくれたような気がする。

というわけで、トレーラー。
トレーラーに、映画の一番いいシーンのひとつが入っちゃってるからちょっともったいないのだが。

日本では公開が決まってないのかな。
ネットでみたかぎりは決まってないようですが、間違いないですよ、この映画。