2011年11月20日日曜日

アメリカTVドラマの新潮流

私のまわりには、アメリカのテレビドラマが大好きという日本在住のお友達がけっこういる。
シットコムもドラマも大好き!という人たちである。
私は、実はアメリカにきたばかりの頃から、「Friends」や「Seinfeld」をみて、なんてバカバカしいんだろうとずっと思ってきた。
笑いのツボは国境を超えないのだ、と。
が、例外的によく観たのが、有料チャンネルHBOのドラマである。
卒業してNYにきたばかりの頃、HBOのドラマ「Oz」をみて、こんなクオリティの高い番組をテレビで作れるのかとびっくりした。
「The Sopranos」も観たし、いわずと知れた「Sex and the City」も観た。
(HBOでみたのはドラマだけじゃなくて、ドキュメンタリーもずいぶん観た。ジョン・アルパート氏の作品もいろいろ観たし、West Memphis Threeについて教えてくれたのもHBOだった。ジョージ・カーリンやクリス・ロックのコメディについてもHBOで知った)。

そんなわけで、この間、HBOの新作「ボードウォーク・エンパイア」のクリエーターであるテリー・ウィンタース、出演者のスティーブ・ブシェミやマイケル・ウィリアムズに、HBOについて話を聞くことができたときは、ちょいと感慨深かった。
(そのストーリーの一部がGQのウェブで公開されてます)

出演者や関係者10人あまりに短時間ながら話を聞くことができたのだが、マイケル・K・ウィリアムズの「ネットワークが動物園だったら、HBOはジャングル」という言葉がとても印象に残っている。
(ちなみに、マイケル・K・ウィリアムズは、「ブロードウォーク・エンパイア」で、黒人が通ってきた辛い歴史をテレビで表現することをどう思うか、との質問に、「表現しないことのほうがよっぽど恐ろしいと思う」と答えていた)
テリー・ウィンターズも、HBOでの作品を「1シーズン12時間のシネマを作る気持ちで作っている」と言っていた。
そして、「OZ」「ザ・ソプラノズ」の影響で、テレビでできることの幅がぐっと広がった、と関係者たちが口をそろえていうのです。
有料チャンネルでも、そうでなくても。

その例として、かならず話題にのぼるのが「Mad Men」そして「Breaking Bad」である。
「Mad Men」は日本でもお馴染みなのは知っていたが、「Breaking Bad」は、高校で化学を教える冴えない中年男性が、ガンになったことをきっかけにクリスタル・メスを作るようになり、どんどん悪くなっていく、という話である。
めちゃくちゃおもしろいし、ストーリーテリングのクオリティも優れているのだが、筋書きが筋書きなだけに、日本で放映できないだろうと思っていたら、去年DVDも販売されているし、ちょうどこの23日から放映されるというではないですか。
捨てたもんじゃないね。
トレーラーはこちら
めっちゃおすすめ。
こういった作品が、テレビのクリエイティビティをこれからも広げていくと思うと、なんだかわくわくします。

2011年11月16日水曜日

「読む」が変わる:Don't let them tell you we don't read



サンフランシスコに行ったのは9月の終わりだったか。
Wired編集部の若林恵さんと。
電子書籍の世界で今何が起きているかを取材するために。
「『読む』が変わる」というタイトルの記事を若林さんが書き、私はwiredの創立者ケビン・ケリーと現編集長のクリス・アンダーソンにインタビューした。

電子書籍というと、どうしても紙の本に対立的な存在と考えがちだが、今回は、雑誌の記事と書籍の間に存在するような、「ショート」「ミディアム」のフォーマットの読み物を刊行しているパブリッシャーに取材した。
どこも、書き手が始めたパブリッシャーばかりである。

若林さんが書いた記事はとてもおもしろいので、あとは買って読んでください。
480円という安すぎる価格がついています。


私にとってのハイライトはケビン・ケリー氏を自宅に訪ねたことだった。
なんてったって、Whole Earth Catalog作った人である。
ちぐはぐの靴下を履いていて、カエルの骨だかなんだかをブリーチする実験とかしていて、お土産に庭で作ったズッキーニをくれた。
「読む」という行為が変わりつつある、という話題のときに、
でもこれは歴史上初めてのことではなくて、「読める」ことが一部の人だけが持つ特殊能力だった時代には、誰かが代表してみんなに読んであげるソーシャルな行為だったわけで、「読む」という言葉が意味するものが変わるのは当然の流れだよ、という話になった。
彼は、ツイッターやフェイスブックだってじゅうぶん「読む」行為だし、人類はかつてよりもより多く「読む」という行為をやっているという考え方だ。
これは「読む」ということに限らず、すべてにおいて、人類は毎日少しずつ前に進んでいる、Tomorrow is always better than today
という考え方なのだ。
デジタルの時代がきて、映画、音楽、出版、どこの世界でもいろんなことが変わりつつあって、「以前のようにはいかないんだよ」という大人がたくさんいる。
「最近の若い人は音楽なんか聞かないんだ」という言葉もよく聞く(後半はバリエーションあり)。
「変わる」ことを悪いことだと思っている人も多い。
私は「昔は良かった論」を聞くとムッとしてしまう性質なので、ケビン・ケリー氏の持論を聞いて勇気を得た気持ちになった。

ちなみに、このおもしろかったケビン・ケリーとのインタビューも、雑誌の誌面だとかなり凝縮することになってしまう。
でもウェブだったらもうちょっと長くてもオッケーだし、さらに取材とかを加えれば、ミディアム・フォーマットになるかもしれない。そして、それぞれきっとオーディエンスは違うのだろうと思う。
というようなことを考え、体感した旅だった。

告白すると、新しい電子書籍のプロジェクトに携わり、デジタルの話をしながら、これまで個人的にはほとんどの本を紙で買っていた。
が、この旅をきっかけにこれも変わった。
単に、取材の一環でサンフランシスコに多数存在するインディ系の素敵な本屋をたずねるうちに、読みたい本とたくさん出会ってしまい、でもスーツケースに入り切らないという物理的な理由で、装丁に魅力のない本をiBookで買うようになった。
それをきっかけに、かなりの本を電子書籍で読むようになった。
あまり深く考えないで買うので、もうすでに毎月アマゾンで使っていたお金を超えるような勢いである。
でも本屋に行く行為はやめないと思う。
本屋での本との出会いは一味ちがうし、物理的の場所としての本屋で過ごす時間は好きだから。