2012年2月3日金曜日

MOSS閉店とアンチ・ノスタルジア

先週、MOSSが閉店するとのニュースが届いた。

MOSSを知らない人のために解説すると、MOSSは無理やりくくるとデザインショップということになるが、その活動はデザインショップのそれを大きく超えていたし、アートとデザインの境界線を曖昧にした、いわばクロスオーバーの草の根だったと思う。
MOSSのウェブサイトは今のところ生きているようです。

いっときは、MOSSがイベントをやるたびに話題になったし、私も買うものがなくても時々訪れたい店だった。
最近は、その名前を耳にすることも少なくなっていたし、自分も足が遠のいていた。
閉店という知らせを聞いて、寂しいなと思ったけれど、NYのデザインシーンのひとつの時代が終わったのだなと妙に納得する気持ちもあった。

高いものばかり売っている嫌らしい店だというイメージを持っている人も多かったと思う。
でも実はそうでもなくて、オープンしたばかりの頃、タッパーウエアのマンハッタン用デザインを作って、郊外の主婦たちがタッパーウェアを売るのをパロってタッパーウェア・パーティを開催したこともある。
モダンというイメージを持つ人もいるかもしれないけれど、陶器メーカーのニュンフェンブルグとコラボして、NYタイムズに「モダニストの死」と書かれたこともある。

私は運良く、カーサ・ブルータスでNY特集をやった2007年に、マレイ・モス氏に長いインタビューをするチャンスに恵まれた。



閉店の知らせを受けて、インタビューをひっぱりだしてみた。
ちょうど、MOSSがミラノ・サローネに初めて出展した頃だった。そのことを聞いたときの答えがこうだった。
「スタジオ・ヨブに依頼してやかんやポットのスカルプチャーを作ってもらったんだ。アートを作る過程を踏んで。つまり僕が提起したかった問題は、これはアートか、プロダクトか、それとも両方か、ってことなんだ。僕が言いたかったのは、プロダクトだって見方によってはアートだということ。アートであるためにアートの過程を踏む必要ない、ってことを示すために、わざわざアートの過程を踏んだ。反応は賛否両論だったけど、何かを伝えようと思ったら、リスクを負わなきゃいけないんだよ」

私は、モスさんと会ってみて、とてもパンクな人だなあと思ったし、世の中を煙に巻いたり、なぞなぞを仕掛けるのが好きなんだろうなと思ったけれど、きっとMOSSで買い物する顧客の多くは、そのあたりはどうでもいい富裕層だったのだろうと想像する。

ちなみに、MOSSは閉店するけれど、モス氏とパートナーのフランクリン・ゲッチェル氏は、また新しいビジネスに乗り出すらしい。
Moss Bureauという名前で。

閉店のニュースを読んでいたら、モス氏のインタビューがあった。

そこにこんな一言があった。
The world changes. And also things get stale, and the dynamics change, as we know. There can’t be nostalgia.
ノスタルジアには興味がない、とあえて釘を指すところがやっぱり素敵である。